in the wilderness

荒れ野にて言葉を探す。北へ。南へ。

vagrancy

through the night

深夜の小さな街の十字路。その少し先、暗がりにぼんやりと浮かび上がったバスディーポの姿とサインは、旅人をほっとさせ、又、不安にもさせる。時刻表を印刷して貰う、手持ち無沙汰の間。無機質な機械音に重なる、くぐもった、行き先ごとのアナウンス。微か…

1996

「Bって、寂しい奴なのよね。きっと」 彼女はそう云った。その夏に知り合った友人Bは、一つ歳上で、私に意地悪だった。十のうちの七くらいは。他の人(特に女性)には殆ど無差別にやさしかったが、私には素っ気無く、話し方はいつも意図的な謎かけみたいで、大…

幸福な酩酊

窮屈に抱えた特別な記憶を、過日の膨大な瓦礫の中から探り出すとき。鈍い眠気のような酩酊がゆっくりと体内を巡り、やがてそれは、一枚の皮膚の下から粟立つように引き抜かれる感覚を伴って、ぞくりとした一瞬の震えへ取って変わる。どこか雨を仕舞った後の…

Nighthawks

エレベータ・ボーイ。彼をそう呼ぶには、あの手動式のエレベータ同様、十分に歳をとり過ぎていただろうか。私はその夏、シカゴの安ホテルにいた。手書きのレシート。仄暗いロビー。確か出入り口の通路の壁を穿った隣には、そこへ間貸りする格好で、気安い中…