2016-05-19 ■ coyote 暗緑色の葉で掩われたいぬぶな科の木立は、今年生えひろがった黄緑色の若葉の部分を、ねっとりと炎えたたせ、古葉と若葉の間におびただしくひそむ淡緑色の粒状の花から、えがらっぽい独特の匂いを吐きちらしている。その匂いを深く吸うと、先ず眉間をうって、耳のうしろをまわり、鎖骨に沁みてから、四肢の内側をくすぐったく流れて、最後に胃がどきどきする。 ― 武田百合子『日日雑記』より―