in the wilderness

荒れ野にて言葉を探す。北へ。南へ。

 暗緑色の葉で掩われたいぬぶな科の木立は、今年生えひろがった黄緑色の若葉の部分を、ねっとりと炎えたたせ、古葉と若葉の間におびただしくひそむ淡緑色の粒状の花から、えがらっぽい独特の匂いを吐きちらしている。その匂いを深く吸うと、先ず眉間をうって、耳のうしろをまわり、鎖骨に沁みてから、四肢の内側をくすぐったく流れて、最後に胃がどきどきする。

                                武田百合子『日日雑記』より―

through the night


 深夜の小さな街の十字路。その少し先、暗がりにぼんやりと浮かび上がったバスディーポの姿とサインは、旅人をほっとさせ、又、不安にもさせる。時刻表を印刷して貰う、手持ち無沙汰の間。無機質な機械音に重なる、くぐもった、行き先ごとのアナウンス。微かに漂う、焦付いた脂の匂い。確かに自分はここに居る筈だのに、何故だかふと、現実味から遠ざかる瞬間。

 乗り換えの列へ並び、順に乗車し、新たなバスはやがて、真夜中を走り出す。前にも見たよな、車窓の風景。アメリカのスモールタウンは皆、何処も似たよな顔をして居る。きっと、いつか見たのだろう。これと似た、別の風景を。

 単調なハイウェイに入ると、鈍い眠気が寄せて来て、けれども私は、全てを眠りに預けられない。僅かばかりの意識が、流れゆく風景から逃れられないで居る。それを記憶にそっと留めるように、と。ただの風景。次はいつ想い出すとも知れない、ただの風景。