in the wilderness

荒れ野にて言葉を探す。北へ。南へ。

2010-01-01から1年間の記事一覧

沈黙

水底に 沈み たゆたう 月 寡婦のヴェールの 漆黒の 沈黙

無為と有為。境目は何処にあって、ふたつはどう違うのか。 またひとつ、季節が変わろうとしている。

Nighthawks

エレベータ・ボーイ。彼をそう呼ぶには、あの手動式のエレベータ同様、十分に歳をとり過ぎていただろうか。私はその夏、シカゴの安ホテルにいた。手書きのレシート。仄暗いロビー。確か出入り口の通路の壁を穿った隣には、そこへ間貸りする格好で、気安い中…

記憶

不意にバランスを失い、高い所から落ちそうになる夢を見ることがあるが、 それは我々人間がかつて木の上に暮らした猿であった頃の。 遠い。忘れられない。その記憶なのだと、何かで読んだことがある。 ふと思う。やがて木から下り、気の遠くなるよな永い時を…

流れつき 暫し留まりて後 やがては消え去るものの その霞を そっと手で触れ

遠吠えが夜の中に吸い込まれてゆくのを聞きながら、深い草の上に眠りたい。 星は出ているだろか。

答えを知りつつも、子供じみた興味に覗き見てしまえば、 苦く後味の悪さばかりが舌に残って、結局、自らの不始末となる。

櫂を漕ぐ音

眠りとの境目で巡るもの 取留め無く 揺らぐ 不確かで 踵の浮かされたよに 地に着かぬもの 煉瓦の朽ちて尚 硬い温もりから離れずに 遠くで呟く夜更けの声色にも似た 安堵の音 夜更けの墨の匂いの 静寂 心の糸を仄暗い水面に垂れれば ゆるり 眠りを誘うよに 一…

小鳥を欠いていること

待ち望むでも無く 諦めるでも無い 気に留めた事柄は ひとつ手前に並んだまま 一日を すみやかに運んでしまった けれども 終わりの夜に独り 振り返る頃には ずるり 引き伸ばされてしまう 其処彼処に残された 今日の痕跡を知った後でも 私はそれを 拾い集めは…

足音

ストーヴに寄りかかるよにして、日がな項をめくる。 掌でやんわりとたわんだ紙は、仄かにあたたまる。 郵便受けの錆びた音に気付いて表へ出ると、 冬の湿った空気はひどく冷たく、息が白い。 首筋のあたりを、つうと撫でられてた。 小糠雨が、霧を吹いたみた…